広島刑務所受刑者脱走と法務省の責任

毎日新聞の記者の目 広島刑務所での受刑者脱走事件
 (2012年3月6日(火)9面 寺岡俊記者 )

を読み、同記事の主張表題である
法務省こそ管理体制の検証を”  に、同感である。

しかし、同記事のWeb版では、表題は消えている。

http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20120306k0000m070135000c.html

以下、そのコピーを添付する。
法務省こそ管理体制の懸賞を という主張に相当する部分を赤字に変更してある。
私の追加コメントは末尾に述べる。

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記者の目:広島刑務所での受刑者脱走事件=寺岡俊

 広島刑務所(広島市中区)で1月に発生した受刑者脱走事件で、法務省の検証チームは2月29日、最終報告を出し、「(脱走が)『起きるはずはない』と思い続ける気の緩みがあった」と、刑務所側を強く批判した。確かに刑務所側には、監視カメラの映像チェックを怠るなど、多くの落ち度が判明している。だがこれは、単に広島刑務所だけの問題だろうか。年に1度、各刑務所の監査を行う法務省の組織管理体制こそ、厳しく検証されるべきではないか。
 ◇二重三重の失態

 1月11日午前。刑務所西側の運動場にいた中国籍の李国林被告(40)=逃走罪などで起訴=は、刑務官3人の目を盗み運動場の倉庫裏に身を潜めた。さらにこの倉庫の出っ張りなどを使い、運動場を囲む内壁(約2.6メートル)を乗り越え、その外側に建つ処遇管理棟(約7メートル)に向かった。管理棟では室外機などを足場に、屋上にはい上った。

 当時、刑務所の四方を囲む外壁(約5メートル)の一部が工事中で、そこには内側と外側に足場が組まれていた。このため刑務所側は逃走防止策として、管理棟などの外側に仮設塀を設けていたが、李被告は管理棟の屋上を突っ切り、反対側に下りる際に、この仮設塀(約3メートル)を突破。地上に下りた李被告は、外壁にたどり着き、そこの足場を使って外に出たとみられる。結局、李被告は、約54時間の逃走の末、広島市内で逮捕された。

 事件を検証すると、刑務所側の二重三重の失態がわかる。まず、刑務所に98台あった監視カメラだ。午前10時半ごろの映像には、壁を乗り越える人物が映っていたが、映像をチェックしていた担当者は1人だけで、これに気づかなかった。また、工事中の外壁は、通常四つのカメラを三つに減らしており、死角があったほか、李被告が当初隠れた倉庫裏も、カメラの目が届いていなかった。

 まだある。李被告が乗り越えた外壁は、工事のため最上部の防犯装置を撤去していた。また李被告は過去、護送中に逃走事件を起こしたことがあるのに、所内では要注意人物に指定されていない。一方、110番通報は、李被告の所在不明が判明してから45分後。その間、刑務所側は所内を捜索していたというが、通報が早ければ、早期に身柄を確保できた可能性は高い。

 事件後の会見で刑務所幹部は「想定外だった」と弁明したが、そうだろうか。亀井利明・関西大名誉教授(危機管理)は「『起きてはならない』ことがいつか『起きるはずがない』にすり替わった。対策を怠った揚げ句の(今回の)事態は、『想定外』ではなく『職務怠慢』に過ぎない」と批判するが、全く同感だ。

 法務省の検証チームは最終報告で、職員の気の緩み▽施設の不備▽初動体制▽李被告の心情把握の不徹底……などの問題点を挙げた。

 報告書によると、広島刑務所は1888年の開所以来、脱走の記録はない。報告書は、「職員の気の緩み」に加え、改築工事が03年から続いていたため、所内に多数の死角があったことを再確認した。また、李被告が受刑者仲間に脱走をほのめかしていたこともわかり、刑務官が李被告の心情を十分把握していれば、事前に脱走の可能性を察知できた可能性もあった、とも指摘した。

 だが、これは広島刑務所だけの問題だろうか。

 ◇監視カメラの「死角」指摘せず

 例えば、法務省の監査体制だ。同省は年1度、全国の刑務所で警備態勢などをチェックする定期監査を実施している。広島刑務所も最近では昨年9月にこの監査を受けているが、最終報告に挙げられた「所内にあった多数の死角」などは、これまでも全く指摘されなかったという。事実ならば、同省は監査体制の見直しを即刻行うべきだ。  また法務省によると、全国の収容者数は10年末で約7万3000人なのに対し、刑務所など収容施設の職員は約1万9000人。職員1人で収容者4人を見ていることになる。法務省の担当者は「再犯防止教育など業務は増えており、人手が足りているとは言えない」と話すが、このような状況を看過してきたことが今回、監視カメラの管理者がたった一人で、李被告が壁を乗り越える映像を見逃すことにつながったのではないか。

 全国の刑務所は、これまで所内で作られた家具などの展示即売会を開くなどして、社会とのつながりを築いてきた。広島刑務所でも、それは秋の恒例行事だった。だが今回、「市街地に刑務所がある怖さが分かった」と、私に話した住民は多い。事件で、刑務所と地域住民の信頼関係は大きく損なわれた。法務省は即刻、信頼回復に取り組まなければならない。(広島支局)

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以下は私の追加コメント:
法務省の検証チームが2月29日に最終報告を出し、
広島刑務所の問題点を列挙したとの事。

法務省の検証チームの仕事に私が点数を付けると30点。

法務省の監査が不十分(職務怠慢)との問題点が
検証されておれば、+30点で計60点。

法務省内に監査チームの仕事振りをチェックする機能が
適正に働いていない(職務怠慢)との問題点が指摘されて
いれば+30点の計90点。

今回、法務省の検証チームには30点という不合格点しか
出せないが、いろいろ疑問も生じる。

基本的には検証チームの中には優秀で責任感の強いメンバーも
混じっているはずである。
仲間内を批判する事にブレーキがかかったのだろうか?
それとも、一度は報告案として記載されたが、上からの圧力で
削除されたのだろうか??

法務省内部の体質の検証が是非とも欲しいところである。

この問題は法務省に限らずあらゆる役所に共通して存在していそうである。
しかし、せめて表面化したところからでも、検証作業を進めないと
日本社会の劣化はますます進行してしまう。

追記1:
 監視カメラの管理者を増やすとの解決策は現実には経費の面から難しいのでは
 なかろうか?
 画像認識技術を利用して、画面の中を物体が高速で移動すると、音でその監視
 カメラの画面を見るよう、管理者に促すような改良(基板とソフトの改良)が
 現実的なコストで出来ないか?
追記2:
 上記 記者の目 での主張表題は
 ”法務省こそ管理体制の検証を”
 であり、新聞紙上で一番大きな字で表題として示してある。
 しかし、同記事のWeb版ではその表題は消えている。